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「おしゃべりしながら 書くことを楽しむ中級作文」Q&A [第1回]

「おしゃべりしながら 書くことを楽しむ中級作文」を使った授業活動に関するオンラインセミナー(第1回)を開催しました。
参加者の皆さまにお寄せいただいたご質問と著者の先生の回答をまとめてみました。

 
[Q&A(第2回)のページはこちら]

セミナーにご参加くださってありがとうございます。

その際にいただいた質問について考えました。

学習者が、また、学習環境が変わればその答えも変わってきますし、教師自身の考えも変化していきますから、これが正答!と言うことはできません。が、このように質問について考えることで、ご自身の現在の指針を見いだすことはできるかもしれません。そんなものとしてお読みいただければと思います。

(🐯)=杉浦千里
(🐭)=木戸光子

Q1 作文を宿題にすると、学生がgoogleなどの辞書機能・翻訳機能などを使ってしまう可能性が高く、私が勤めている学校では授業内で書かせています。宿題にしても支障はありませんか?

辞書や翻訳機能を使って学習を進めるのはいい手段だと思います。一方で、それが必ずしも学習者自身の作文の力の向上に結びつかない恐れもあります。例えば、辞書や翻訳機能に頼りすぎて、自分の知っている言葉を使いこなすより、言葉を調べるだけで終わってしまう場合です。その対策として、書き上げた後の学習者同士のペア読みをおすすめします。新しい言葉や新しい表現を相手に説明できればOK。音読して漢字の読みを確認しておくことも大切です。「自分が書いたものについては責任を持って回答する」というルールにしておくと、あまり背伸びをした作文は書かなくなるようです。(🐯・🐭)

Q2 5段階評価のうち「3」が普通とのことですが、何を「普通」と考えればよいでしょうか。

その授業で学習者にできてほしいと思うこと(=評価項目にあること)、できてほしいと思うレベルに達していれば「3」(普通)とします。が、私はつい、甘めにつけてしまいます。(🐯)


5段階評価のうち3点(普通)とするのは、学習項目は不十分ながらも満たしていている場合と考えています。実際の作文授業では、私は5点の評価から考えて、標準を何点に置くかで基準を立てています。「普通」というと絶対的な基準があるように考えられがちですが、むしろ「標準」を何点に置くかという相対的基準で採点することが多いです。例1)と例2)に分けて説明します。

例1)標準を5点とし、学習項目が過不足なくできている場合を5点とします。この場合は応用例などのボーナス点はなくなります。

例2)標準を4点(または3点)とし、学習項目が過不足なくできている場合を4点(または3点)とします。この場合、5点(または4点)はボーナス点となり、学習項目に関して創意工夫が見られる作文に1点(または2点)加算します。例えば、第3課「留学の準備」について、「構成(アウトライン)をわかりやすく書く」に関して、モデル文章に準拠した作文は4点、作文の冒頭に問題提起文や背景の説明があったり、作文の末尾に全体をまとめた自分の意見があったりすれば、アウトラインの応用例として5点(または4点)とします。(🐭)

Q3 オンライン授業のときに、学習者同士で採点し合うことができますか。

可能だと思います。なぜ学習者同士で採点するのか、その理由と活動の意義を納得した上であれば、有意義な活動になると思います。「お互いの作文を読んで採点し、なぜその点数なのか理由を話してください。」という指示を出すと、積極的に参加してくれる学習者が多くなります。(🐯・🐭)

Q4 私の学校の学生はビジネスマンも多いのですが、「ペアワークはしたくない」「ネイティブの教師とでないと意味がない」というような意見が出ます。

その理由はどんなことなんでしょうね。じっくり聞いてみたいです。

「何を言ってるのかよくわからないクラスメイトの話を長々と聞きたくない」という理由であれば、その気持ちもよくわかります。対処法として「聞き手の反応を見ずに一方的な話はしない、わからないときは中断して質問してもOK」などの具体的なルールを作るのもいいかもしれません。ペアワーク拒否の理由を聞いた上で、でも、やっぱり学習者同士の活動はあなたの向上に役立つと言えるといいですね。(🐯・🐭)

Q5 授業の時間配分は実際何分でしょうか? 授業1回(一般的に90分×2)でしょうか。

週1コマ授業(75分)×10週です。ただ、時間配分としてこれは必要最小限です。理想は、週1コマ授業(90分)×10週です。勤務校が1コマ75分なのですが、いつも90分授業ならもっとグループ活動に時間がとれるのに、と思って授業をしています。(🐭)

Q6 私の学校もオンライン授業ですが、Facebookのメッセンジャーをつかって、学生同士のやり取りをしています。特にベトナム人はみんなFacebookを使っています。

Facebookを使って連絡事項やお互いのちょっとしたことを日本語で書いたり、読んだりするのはいいですね。気楽にできるし、イフェクトを使って楽しめるし。(🐯・🐭)

Q7 「書きたいことは自分で決める」、いいと思うのですが、書きたいことというのは、テーマですか? 共通のテーマの内容のことでしょうか。

共通テーマの内容のこととしてお話しました。(🐯)


共通のテーマが各課にあるのですが、そのテーマで書きたくなければ、p.75「いろいろな作文のテーマ」から学習者が選んで書くこともできます。アウトラインや作文ルールはその課のものが使えます。または、最低限の字数(第3課以降300~400字)を決めて、字数は学習者にまかせてもいいと思います。過去の授業で学習者に意見を聞いたところ、書きたいテーマと気が乗らないテーマがやはりあると言っていました。書きたいテーマのときは1ページ以上の長い作文、気が乗らないテーマのときは最低限の字数で作文を書けるといいということでした。学習者の作文を見ていても、同じ人でもテーマによって800字から300字ぐらいまで字数の幅がありました。(🐭)

Q8 学習者がスマホやiPhoneを使っているので、書いたものをアップさせるのが難しいかもしれません。

書いたものを写真にして送ってもらうのはどうでしょうか。ただ、その場で一緒に読むのにはこれでもいいのですが、添削することを考えると、他のツールを準備してもらいたいですね。(🐯・🐭)

Q9 書きたくないテーマで書かせないといけないことがあります。EJUもあるのでしかたないですが、書けるようになってくると書きたくないテーマでも書けるようになりますか。

「書きたくないテーマとは?」「書きたくないのはなぜ?」ということを聞いてみたいです。そのテーマのことをよく知らない、興味がない、考える材料がないということなら、それを補充してディスカッションしてから書くことが有効かもしれません。また、どのように書けばいいのか構成や表現で困っている学習者は、アウトラインを活用することで、書くことが少しずつ楽になるようです。(🐯)


テーマへの興味を促すより、他の人の話を聞いてみることを、まずは進めていってはどうでしょうか。「書きたくないテーマ」のとき、活動1「アイディアさがし」で、まずは他の人の意見を聞くことを勧める方法もあります。興味がなくても、人の意見を聞くうちに、少しずつ自分の考えをまとめる人もいます。(🐭)

Q10 テーマの内容自体がずれていたり、主張が一貫していない場合の添削はしないのですか。

指定されたアウトラインを使って書くと、それほど大きくずれることはありません。内容がずれているのは、察するに、指示が理解できていないか、そのテーマ以外で書きたい場合でしょうか。本人に「どうして?」と聞いてから添削するとよいのでは。

主張が一貫していない作文もペア読みでQAしながら読み解いていくと、書いた本人も「一貫していない」点に気づくことができるでしょう。(🐯)


添削では「?」を該当箇所につけた上で、活動4フィードバックのときに、ペア相手に読んでもらって意味が通じるかを聞いてもらうとよいでしょう。テーマの内容や主張の一貫性があるかどうか、作文チェック記号や各課の作文の評価の表を一つずつ確認していくことにより、自分が気づかないことをペア相手との活動を通して気づく人もいます。私は作文添削時に、下線の代わりに右端に縦線を数行にわたって付けて「?」を書いたり、「どんな意味?」「どんな意見?」など短いコメント付き「?」を書いたりします。ペア相手とのチェックで気づく人もいれば、活動の時に「?」の意味を教師に聞いてくるペアもいます。(🐭)

Q11 原稿用紙は積極的に使わせたほうがいいでしょうか。最近はあまり使わないようですし、特にオンラインになってからはWordの作文用紙を作って、ファイルに直接打ち込むようにしていますが、Wordよりは原稿用紙/手書きのほうがいいでしょうか。

原稿用紙のルールを一度覚えておくと、Wordの文章作成にも使えます。また、入試などで手書きを求められることもあるので(今後、なくなりますかね)、基本的なルールは必要だと思います。(🐯)


日本語の文章を作成する上での基本的なルールは、手書きでもキーボード入力でも同じなので、書式を整えることも含めて中級前半で理解しておいたほうがいいです。(🐭)

Q12 FBで困っているのは学生の書いた文をどこまで生かすか、です。「意味はわかるけれど、ネイティブは絶対こうは書かない」みたいなときに、学生の文を生かして間違いだけを直させるのがいいのかどうか。特に、学生がそれを覚えて発表するような活動があるとき、正しいけれど不自然な文を一生懸命覚えている姿を見ると考えてしまいます。

そうですね、私もいつも悩みます。「こんな表現はないけれど、その人らしさや新しい言葉の使い方で新鮮でいい!」ということも多々あります。それで、チェック記号の【 】を作りました。「間違いではないけれど、他にも表現があるよ」「日本語ネイティブはこんなふうにするよ」というものを提示して、どちらがいいか本人に選んでもらうのもいいのでは。(🐯・🐭)

Q13 添削しただけでは、学生はそれを見ただけで終わってしまうので、もう一度宿題で、清書させるようにしています。

そうですね、見ただけで終わってしまうとちょっと空しいですね。それで、このテキストではフィードバックの方法をいろいろ提案してみました。清書も一案だと思います。(🐯)


今学期担当している授業では、2回同じテーマの作文を提出するようにして、1回目は、教師は作文チェック記号のみの作文を返却し、ペアでチェックしてします。授業後に書き直し作文を提出し、教師は作文チェック記号と修正案付きで添削します。2回目の作文として翌週の授業で返却して、ペアでチェックしています。2回目の作文が清書と同じとなり、ほぼ問題のない作文が提出されています。1回目の作文チェックで十分な時間をとる必要がありますが、それができると学習効果が上がる方法だと思います。(🐭)

Q14 今回BORで添削した例の作文の後半のように、何だか意味のわからない作文は、記号が決まっていても、迷ってしまいます。やはり添削は大変だと感じてしまいます。先生に時間と心の余裕がないと、ある個所から全部が「?」の記号になってしまうこともあるような気がしました。

時間と心の余裕、ほしいです、私も。「?」だらけになったときは、とりあえずちょっと休みます。3分ベッドに倒れ込んで、また立ち向かいます。学習者も頭を悩ませて書いたんだろうと思うと、やらねばと思います。それでもやっぱり「??」だらけだったら、直接本人に聞きます。それから、記号は慣れてくるとだんだん楽につけられると思います。しばらく続けてみてください。(🐯)


あえて全部「?」をつけて、その理由をペア相手といっしょに考えてもらうのも自分の作文を客観的に見ることができる機会になります。教師が添削で大変なのは、書き手の学習者の意図する内容がわからないまま添削することも一因ではないでしょうか。もしそうならば、わからないところはそのままにして、授業中のペア活動で教師もともに参加して、何が言いたいのかを直接書き手に聞いてから添削案を考えたほうが時間の節約にもなるはずです。必要に応じて教師の時間と労力のかけ方にメリハリをつけてはいかがでしょうか。(🐭)

Q15 私は、意味のわからない文があったとき、母語で書かせて送らせたことがあります。Google翻訳を使えば意味のわかる文になりました。相手の母語を知っていたからできたのかもしれませんが、機械翻訳も恐れすぎずに使えばいいと思います。

いいですね! 私も今度やってみます。意味がわかれば、次に文の精度を上げる表現に直していくこともできますね。(🐯)


私もやってみようと思います。DeepLも使えそうですね。(🐭)

Q16 セミナーのお話しからクラスや添削者で評価が変わることもOKということだと理解しましたが、統一的な基準で評価が必要な場合、ちょっと難しいのかと考えました。

学校での統一した評価基準があれば、それに準じて別の評価基準を立てることはできるのではないでしょうか。この教科書にある「作文の評価」は各課の目標に従った学習項目です。統一的な基準の評価は別に行うことで、学習者に各課の作文学習の参考のチェックリストに留めることも可能です。(🐭)

Q17 今回のセミナーで使用したサンプル作文に関して、文法的事項以外に、そもそも内容が一貫していないので、どうしたらいいかわからなかったです。

その学習者の現在のレベルから、少しずつ上に上がっていければいいかなと思います。上がっていくための階段を一段ずつかけられる役目が果たせるといいなと思っています。今回は文作成ができた。それぞれの文をつなげて、言いたいことを伝えるためにはどのような構成にしたらいいか、接続語を使えばいいか、その練習を考える=階段を一段作るのが私の(教師の)役目ですね。(🐯)


研修会のサンプル作文の3段落構成について、第2段落の冒頭文を第1段落の最後に移せば、第1段落と第2段落で一貫性のある内容になるのではないでしょうか。このような段落や文の移動に関わる問題について、できれば授業の全体説明で、みんなで一緒に考えると、アウトライン(構成)の理解につながります。または、添削チェック記号のみの添削を学習者に返却し、活動4フィードバックのペア活動でアウトライン(構成)の問題や内容の一貫性について考えてもらうといいでしょう。(🐭)

Q18 中級レベルを対象としてテキストですが、初中級のレベルに応用するなら、どの部分をどのように使えばいいでしょうか。「初中級では無理な部分」と「ここは使えそうというところ」があれば、教えていただきたいと思います。

「活動1 アイディアさがし」の話し合いやアウトラインは中級レベルと同じように使えます。「活動1」から「活動4」までの流れもそのまま応用可能です。

一方、語彙や文法など初級後半ではまだ理解できないことも多く、理解のための支援が必要になります。私が初級後半のクラスで使用したときは、「活動1」から「活動4」の説明は、教科書に準拠したパワーポイント教材を作成して授業を進めました。学習者といっしょに読みながら教科書に示された活動や説明の意味を確認することにより、教科書の内容を理解する時間を多く設けました。その上で、教科書に沿った活動を行いました。

また、学習者の作文では漢字ではなくひらがな書きも多くなります。キーボード入力によって漢字入力も可能ですが、学習者によっては自分で書けない漢字はあえてひらがな書きにする人もいました。「活動4」で自分の作文を音読してペア相手の質問に答えるには、漢字を無理に使用しないほうがやりやすい人もいます。特に、非漢字圏の学習者は漢字より語彙を学ぶことを中心においたほうが学習しやすいようでした。それに対して、漢字圏の学習者は漢語を多く使いがちですが、辞書で調べた漢字の読み方や意味がペア相手にきちんと説明できないこともありました。そのような人は調べた漢字の読み方を作文に書いておいたり、自分で調べた意味を作文の余白にメモしたりしていました。(🐭)